天珠の技法

 現代においてもまだ不明な部分の多い、紋様の焼き付け技法だが、現代の天珠においては、白い部分をアルカリ性化学物質(一般にはカリ溶液)、黒い部分を酸性化学物質(一般には硝酸銅)で焼き付けていることが分かっている(他にも赤色を出すために酸化鉄を使用するという話もある)。メノウに薬品を焼き付ける際には約1300℃の高温とその際に窯の内部の圧が不安定になるため圧が加えられているようである。しかし、薬品の濃度、詳細な温度や圧などの部分は企業秘密になっており、工場によって多少の違いがあるようだ。古代の天珠においては、白い部分をエッチドカーネリアンと同じ技法(アルカリ性の強い植物の根から採取したナトロンという鉄分を含んだ塩分(アルカリ性)の液を灰と混ぜて使用)もしくはヒマラヤ圏で採れる岩塩を使用したと思われ、黒い部分は砂糖水を塗るもしくは浸透させ煮て、砂糖から水分を取り炭化させる方法がとられたといわれている(砂糖は紀元前2000年頃にはインドで作られていた)。焼き付けについてもエッチドカーネリアン同様に300℃から400℃の低温で時間をかけて焼き付けたのではないかと思われる。
 現代の天珠は販売が目的であるため短時間で作成しなくてはならないため高温が必要なのではないかと思われる。しかし、圧の関係で破損し廃棄処分されるものも多いと聞く。しかし、古代の天珠については破損し廃棄されたような天珠は見つかっておらず(工房らしいものも見つかっていない)、時間をかけて低温で焼き付けたため破損がなかったものだと思われる。それは古代の天珠が販売目的ではなかったため、短時間で作る必要がなく時間をかけてゆっくり仕上げることができたためではないだろうか。
 ちなみに、木炭(黒炭)が燃焼し落ち着いている時の温度が700℃〜900℃と言われており、炭の中(もしくは近く)に天珠を入れて焼き込めば窯などを必要とせず時間をかけて焼き込むことができる。