天珠に近いビーズ類の紹介

ここでは、天珠の原点になったと思われるビーズ類および天珠の影響を受けたと思われるビーズ類の紹介をしていきたいと思います。

1.天然縞メノウ(天眼石):Natural Banded Agate (Eye Agate)
 天然の縞模様を生かした天珠型もしくは丸型のビーズ。後述するスレマニも天然縞メノウですが、外観が全く違うため区別しました。磨く角度によっては縞模様で天珠の「眼」や「線」が再現するできることから天珠の前身ではないかと思われる。作られた年代等は確定したものはない。メノウが産出される所であればどこででも作製が可能と思われる。

2.エッチドカーネリアン:Etched Carnelian beads
 紀元前2600年から紀元前2200年頃にインダス文明において作られはじめ、メソポタミアの初期王朝であるアッカド朝期から輸出されはじめている。材質はカーネリアン(紅玉髄)で、アルカリ性の強い植物の根から採取したナトロンという鉄分を含んだ塩分(アルカリ性)の液を灰と混ぜて紋様を書き、300℃から400℃の低温で焼き、固着させる(あぶり出すという説もあり)。天珠の紋様を焼き込む技術の原点だと推測している。

3.チョンジー(チャンジー):Chung dZi
 紀元前3世紀から紀元後2世紀のヒマラヤ圏で見られる、主にカーネリアン製のビーズ。名前は台湾で「中天珠(副次的な天珠)」(中のチベット語の音訳がチョン)いう意味を持つらしく、代表的なものに線紋様が多いため「=線珠」と思われがちだが、線珠のことをチョンジーと言うわけではないそうです。筆者は前述したエッチドカーネリアンと天珠の中間的存在と推測している。

4.スレマニ(スレイマン、スーリマン):Suleiman
 スレマニとはビーズに限らず原石そのものの呼称で、天然の白黒の縞メノウだがその縞模様は独特で縞メノウと結晶化した二酸化ケイ素から構成される鉱物。産地もインド南部と限られている。天珠の前身になったものと思われるが、その歴史的背景等、天珠同様に謎な部分が多い。
 インド南部の古代カルナータカ(現在のカルナータカ州)は紀元前3000年頃にはすでにインダス文明との接触があったといわれ、インダス文明ハラッパー遺跡では古代カルナータカ産の金が見つかっている。とすると、スレマニの貿易もあった可能性が推測できる。
スレマニの貿易経路としてはいくつか考えられるが、

?インド南部から海路もしくは陸路でインダス文明に渡り、インダス文明からギルギットそしてカシュガルへ運ばれたと思われ、途中のギルギットでチベット人が入手したとする説。ギルギットは古代西チベットにあったとされるシャンシュン王国の西端と言われているため、可能性は否定できない。ちなみにカシュガルは古代イラン語、ペルシア語で「玉の市場」と言われ、シルクロードを通り多くの物が集まる場所であった。スレマニという語源はカシュガルのローマ字表記である「Sulei」とチベット語の「宝石」を意味する「マニ(mani)」で「カシュガル(Sulei)へ持ち込まれる宝石(mani)」でスレマニと呼ばれるようになったと推測できる。

? ?と似ているが、チベット人がギルギットではなくカシュガルでスレマニを手に入れたという説。つまり「カシュガル(Sulei)の宝石(mani)」でスレマニと呼ばれるようになったと推測できる。

?インド南部から海路にて古代イスラエル王国のソロモン王(紀元前1035年から紀元前925年頃)に献上され、その後、カシュガルを経てチベット人の手に渡ったという説。ソロモンはトルコ語で「スレイマン(Suleyman)」と呼ばれており、「ソロモン王の宝、もしくはソロモン王からもたらされた宝」でスレマニと呼ばれるようになったとも推測できる。

諸説イロイロあるが、今回は天珠がメインのためこれ以上は追及しないことにする。

ちなみにシルクロードについて少し補足しておきますが、シルクロードと正式に名前がついて貿易が盛んになったのは紀元前2世紀頃からですが、まだシルクロードという名前が付いていなかった時代から少数規模の行商の往来はあったものと推測しております。というのもタクラマカン砂漠シルクロード上のオアシス都市では、紀元前2000年頃から近隣都市との交流があったと思われ、その遺跡からは紀元前2000年頃のヨーロッパ系の女性のミイラ(ローラン美人)が見つかっており、他にも紀元前1800年頃の子供のミイラ、紀元前1000年頃の赤ちゃんのミイラ、紀元前700年頃の赤ちゃんのミイラが見つかっています。オアシス都市では食料供給にも限度があると思いますので、外部との貿易があっても不思議ではありません。

5.バムテックビーズ(ブンテックビーズ):Pumtek beads
 北方インド、ミャンマーの山岳民族で主に見られ、中国四川省西北部が起源とされる。ヤシの木質部分に珪酸塩が染み込みオパール化した木の化石で作られ、形は樽形、板形などがあり、紋様を着ける技法、紋様の種類など天珠に共通する部分があるがまだ謎な部分が多い。雷のパワーを凝縮したビーズで災いを防ぎ幸運を招くと言われている。紀元前1000年頃のチベット東部のチベット遊牧民族である羌(チャン)族の家宝とされている。時期的には天珠とほぼ同じだが、天珠を元に作られたビーズ、もしくは天珠と同時期になんらかの理由で天珠と差別化するために地元で採取できた木の化石を使ったのではないかと推測している。